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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)386号 判決 1999年6月24日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

理由

第一  取消事由一(「茶福豆」の慣用商標又は普通名称該当性の判断の誤り)について

一  前提となる事実関係

各項の末尾に掲記の証拠又は当事者間に争いのない事実によれば、「茶福豆」が慣用商標又は普通名称といえるか否かの判断に必要な事実として、次のような事実がある。

(1) 「茶福豆」の由来

<1> 東京都所在の煮豆業者である株式会社くぼたは、昭和五〇年ころ、中国から初輸入した大黒花芸豆(中国産のインゲン豆の一種)を原料とする煮豆を開発し、これに「茶色」の「福豆」との趣旨で「お茶福豆」との名称を付して販売を開始し、その後、関東地方、北海道、大阪等の複数の煮豆業者がこれに追随して、大黒花芸豆の煮豆商品に「茶福豆」との名称を付して販売するようになった。

昭和五〇年三月六日付け食料新聞第六面(甲第二号証)にも、「一方、大手商社筋ではこのような穀類の高値から中国産あたりの大黒花芸豆を今年より初輸入し煮豆業界の一部メーカー筋では加工に踏切っているところもありすでに問屋筋にも先月末あたりから出荷している。商品名は「お茶福豆」という名称で発売されており大きさは大正金時ぐらいのものでやや黒味を帯びている。」と記載されている。

(当事者間に争いがない。)

<2> 上記事実によれば、「茶福豆」のうち、「茶」の部分については、大黒花芸豆を原料とする煮豆の色という商品の属性と関連付けられて命名されたものと認められる。

これに対し、「福」の部分については、商品の属性との直接の関連性は認められない。

(2) 市場において販売されていた大黒花芸豆の煮豆商品の名称

<1> 昭和六三年ころ

「茶福豆」を使用する者が一六業者、「お茶福豆」を使用する業者が二業者であった。

(当事者間に争いがない。)

<2> 原告とフジッコによる「茶福豆」の使用

原告は、昭和六三年に自社製の大黒花芸豆の煮豆商品を「黒花豆」の名称で販売を開始し、平成元年その商品名を「茶福豆」に変更した。また、フジッコは、平成二年に「茶福豆」の名称で大黒花芸豆の煮豆商品の製造販売を始めた。

(甲第六三号証及び弁論の全趣旨)

<3> 平成七年

「茶福豆」を使用する者が、原告及びフジッコを含めて約三〇業者、「お茶福豆」を使用する者が二業者、「高原豆」、「花豆」等他の名称を使用する者が八業者であった(神戸地裁判決の認定と異なるのは、後に石井食品株式会社ら五社が「茶福豆」を使用していることが判明したためである。)。

(当事者間に争いがない。)

<4> 引用商標は、茶福水産を商標権者とする登録第一〇九六二七六号商標(昭和四六年一〇月一一日登録出願、昭和四九年一一月一四日設定登録)から指定商品を「煮豆その他の加工野菜及び加工果実」とするものが分割され、平成七年一〇月九日付け登録により茶福水産及びフジッコの共有になったものであるが、茶福水産は、平成七年一二月と平成八年七月に、「茶福豆」又は「お茶福豆」の名称を使用している上記各業者(フジッコを除く)に対し、引用商標権の侵害を理由に名称の使用中止を求めたところ、八業者が名称を変更したり変更を約束し、二業者が茶福水産と名称使用許諾契約を締結し、六業者が裁判結果に従う旨回答し、二業者が中止に応じない姿勢を示した(なお、六業者は、販売不振等を理由に既に「茶福豆」商品の製造を中止していた。)。

(甲第六三号証、甲第七三号証。一部は、当事者間に争いがない。)

(3) 「茶福豆」のシェア

<1> 「茶福豆」という名称の煮豆商品の煮豆市場におけるシェアは、次のとおりである。

(a) 平成二年 一・七%

(うち原告 一・一%、フジッコ〇・六%)

(b) 平成七年 一二・七%

(うち原告 七・七%、フジッコ五・〇%)

(c) 平成八年 一三・三%

(うち原告 八・〇%、フジッコ五・三%)

(d) 平成九年五月 一一%

(うち原告 五・九%、フジッコ五・二%)

(当事者間に争いがない。)

<2> 「茶福豆」という名称の煮豆商品の煮豆市場におけるシェア拡大は、平成二年以降、原告とフジッコがテレビコマーシャル、雑誌広告等を通じて宣伝広告活動を展開したことによるものである。

(当事者間に争いがない。)

この点をより具体的に認定すると、甲第六一号証によれば、原告は、平成三年に総予算八八〇〇万円で大阪地方で、平成四年に総予算五九〇〇万円で大阪地方及び広島地方で、平成五年に総予算四二〇〇万円で大阪地方及び広島地方で、平成六年に総予算一億二四〇〇万円で大阪地方、広島地方及び茶福水産が本店を有する名古屋地方で、それぞれテレビスポットコマーシャルを行ったことで、平成七年には、総予算一億〇五〇〇万円で、従来の大阪地方、名古屋地方及び広島地方に加え、東京地方及び北海道地方でもテレビスポットコマーシャルを行ったことが認められる。

<3> POSデータによれば、主要煮豆製品別構成比において、「茶福豆」は次のシェアを有していた。

(a) 平成六年一月ないし一二月 一三・〇%

金時豆 一五・七%

昆布豆 一一・四%

黒豆 七・四%

お多福豆 一・五%

うぐいす豆 一・三%

(b) 平成七年一月ないし一二月 一二・七%

金時豆 一一・七%

昆布豆 八・六%

黒豆 九・五%

お多福豆 二・三%

うぐいす豆 〇・八%

(c) 平成八年一月ないし三月 一四・四%

金時豆 一二・四%

昆布豆 一〇・九%

黒豆 八・七%

お多福豆 三・四%

うぐいす豆 二・三%

(甲第四ないし第九号証)

<4> 被告は、甲第四ないし第九号証等のデータは年商一〇億円以上のスーパーマーケットだけでも一四六九社あり、その店舗数はその何倍もあることと比較すると、わずかな店舗におけるデータを基にしたものであり、信用性がない旨主張する。

しかしながら、《証拠略》によれば、甲第四ないし第九号証のデータは、通商産業省所管のPOS推進機関である(財)流通システム開発センターが収集したデータを基にして作成されたものであり、バーコード表示のある商品のみを対象としているとの制約があり、どのような統計的処理がされているのかその詳細は不明であるが、茶福豆と名付けられた商品が煮豆商品の中で大まかにどの程度のシェアを占めるのかを知るとの限度では信用性があるものというべきであり、わずかな店舗におけるデータを基にしたものであるから信用性がない旨の被告の主張は理由がない。

(4) 「茶福豆」製品等における表示

<1> 甲第一〇号証ないし第四六号証の原告、フジッコ及び他の業者らの「茶福豆」製品の袋、トレー等には、単に「茶福豆」との記載があるのではなく、例えば、「ふじっ子」との表記とともに「茶福豆」との記載がある。

(当事者間に争いがない。)

<2> 特に、フジッコの平成三年三月一二日製造「高原 お茶福豆」の包装袋の裏面(甲第五〇号証の二)には、「中国南西部の雲貴高原にある雲南省は、おおらかな自然に恵まれ、その中心都市「昆明」は一年中緑につつまれているさまから「春の城(都)」と呼ばれています。夏は涼しく冬は陽の長いおだやかな気候に育まれた大黒花芸豆(日本ではお茶福豆)を、フジッコの技術でふっくらとおいしく炊き上げました。豊かな自然の恵みを、みなさまの食卓にお届けします。」との記載がある。フジッコの平成四年二月二八日製造の「大粒お茶福豆」の包装袋の裏面(甲第五一号証の二)にも、同旨の記載がある。

フジッコの平成七年九月一五日製造の「茶福豆」の包装袋の裏面(甲第五二号証の二)にも、「おおらかな大地で育まれた茶福豆(大黒花芸豆)を、ふっくらとおいしく炊き上げました。大自然の風味をご賞味ください。」との記載がある。

(当事者間に争いがない。)

<3> 上記<2>中の甲第五二号証は、引用商標がフジッコに分割譲渡された後の包装袋であるところ、その表側(甲第五二号証の一)では、「茶福」の文字のすぐ後に<R>が記載され、裏側(甲第五二号証の二)では、「「茶福」は登録商標です。」との記載がある。

(甲第五二号証の一、二)

(5) 新聞、雑誌等の扱い

(a) 平成六年八月八日付け「食品新聞」(甲第五六号証の一)には、最近の煮豆業者の取扱品種についての記事中に「大豆から金時豆、うぐいす豆、……茶福豆……白花豆などに拡大」との部分があり、雑誌「月刊消費者」の平成九年六月号(甲第五九号証)には、煮豆に関する記事の中に「煮豆の販売量が多いのは、金時豆、……昆布豆。あとは白花豆、茶福豆、黒豆……」との部分があり、これらの場合の「茶福豆」という言葉は、大黒花芸豆を原料とする煮豆を意味する一般名称として使用されている。

(当事者間に争いがない。)

(b) 平成七年四月一九日付け「日本食糧新聞」(甲第五五号証)、平成六年八月八日付け及び平成七年八月一六日付け「食品新聞」(甲第五六号証の一、二)並びに平成七年一月二八日付け、同年二月一一日付け及び同年四月一五日付け「日経流通新聞」(甲第五四号証の一ないし三)の「売れ筋商品ヒットチャート」の欄には、「茶福豆」という言葉が複数掲載されている。

(当事者間に争いがない。)

(c) 上記(b)の新聞中の記載のうち、甲第五四号証の一ないし三の記載は、商品名の欄に単に「茶福豆 二三〇g」と記載されているため、原告の商品名として「茶福豆」が記載されていると認めることも可能であるが、甲第五五号証及び第五六号証の一、二については、金時豆、うぐいす豆、黒豆等と共に列挙されているものであるから、大黒花芸豆を原料とする煮豆の一般名称として使用されているものと認められる。

<2> 昭和五〇年三月六日から昭和六一年一月一一日までの間においても、次の記事がある。

(a) 昭和五〇年一二月一一日付け食料新聞(甲第六六号証の一)には、有限会社くぼた商店の「お茶福豆」の広告が掲載されている。

(b) 昭和五一年五月二七日付け食料新聞(甲第六七号証の一)及び同年一二月一六日付け同新聞(同号証の二)では、都内のデパートの標準小売価格として「茶福豆」が二〇〇gが二〇〇円であると紹介されている。

昭和五二年七月二一日付け同新聞(甲第六八号証の一)には「煮豆類は、日持ちが悪いという季節的な関係で全般的に動きが鈍いが、その中にあって、うぐいす豆、うずら豆、茶福豆、お多福豆などの動きが比較的良いようだ。」との「茶福豆」の紹介記事がある。

(c) 昭和五三年から昭和五五年にかけて「茶福豆」の市況が食料新聞(甲第六七号証の三ないし七)に掲載され、また、昭和五七年には「茶福豆」が好評を得ている商品として紹介されている(甲第六八号証の二、三)。

(d) そして、昭和五八年一月一六日付け食料新聞(甲第六八号証の四)には、それまでの「茶福豆」の歴史をまとめたものとして、「八年前に中国から輸入された雑穀原料の「紫大黒花芸豆」が煮豆に加工され、「お茶福豆」の名称で全国市場に市販されはじめて、早や七、八年前になる。……煮豆業界では全国的な規模で加工している。最近はうづら豆の生産を大幅に上回るという結果が出ており、今後もまだまだ増加の方向を辿るものと業界筋では予想している。なぜ、うづら豆を上回るこのような人気があるのかをあらゆる角度からさぐって見ると、大半の消費者は「あっさりした味で美味しい」ことを上げている。……昨年一年間を見ても「うづら豆」を上回る人気に業界筋ではちょっとしたブームだ。」と紹介されている。

また、同年二月一一日付け同新聞(同号証の五)では、「輸入原料を使用して茶福豆も需要が定着したようだ。」とされ、さらに同年四月二一日付け同新聞(同号証の六)では、「煮豆類を種類別に小売店が売った順位を見ると<1>うづら豆<2>茶福豆<3>うぐいす豆<4>お多福豆<5>白花豆<6>ふき豆といった順で、圧倒的にうづら豆、茶福豆、うぐいす豆が業績好調。」とされている。

(e) 昭和五九年四月一六日付け食料新聞八面(甲第六八号証の一一)では、「煮豆類は、茶福豆、うづら豆、うぐいす豆などが平均して売れており、問屋筋の話は茶福豆が価格で売れる、うづら豆は味で売れるといったことが一般に聞かれ、また成長商品としては茶福豆が筆頭だ。」とされ、昭和六〇年一月二六日付け同新聞(同号証の一三)では、「茶福豆」との表題の下に、「菜福豆(茶福豆の誤植。以下、同じ。)が最近うづら豆に変って市場筋で大幅な伸長を示している。一部市場筋ではうづら豆以上の動きを示している地域も見られ将来大きな期待の寄せられる煮豆商品として注目されてきた。それが都内の煮豆メーカーで開発されたのは昭和五〇年月ことだからもう既に一〇年の才月がたつが価格が比較的に安定していることと美味しさがマッチして急激な伸長を示しているだけに過去数年全国の煮豆メーカーで加工を手がける傾向が強い。菜福豆の全国的な生産量は推定一、五〇〇トンといわれ今年もまだかなり増大する傾向にある。……数年後には茶福豆市場は今の倍が予想され当然輸入枠の拡大が必至と見られ商社筋でもその動きが見られる。……この原料の安定供給さえスムーズに実現出来れば煮豆製品では一躍うづら豆やうぐいす豆を抜いてトップの座につくことは間違いないと業界筋では予想されている。」とされている。

そして、昭和六三年五月二一日付け同新聞(同号証の一八)では、「「金時豆」や「昆布豆」、「茶福豆」、「うぐいす豆」等が手固い需要の伸び率を示し各社とも生産の強化を図っているのが実情である。」、「煮豆類でもざっと人気の高い商品をひろいあげると茶福豆、かつおひたし、きんとき豆、昆布豆、黒豆、うぐいす豆、虎豆など」とされている。

(f) 以上のほか、昭和五〇年三月六日から昭和六一年一月一一日までの間における新聞には、各社の広告としては甲第六六号証の四ないし六、市況欄等で「茶福豆」が掲載されている甲第六七号証の一〇、一一及び甲第六八号証の九、一〇、一二ないし一五がある。ただし、甲第六六号証の五、六、甲第六八号証の九、一〇においては、「茶福豆」ではなく、「お茶福豆」と記載されている。

(以上は、甲第六六号証の五、六、甲第六八号証の九、一〇においては「お茶福豆」と記載されている点を除き、当事者間に争いがない。)

(g) 以上(a)ないし(f)の新聞中の記載のうち、甲第六六号証の一、二、四ないし六、第六八号証の二、九、一〇については、各記載だけを見ると、特定の商品名を意味するか、大黒花芸豆を原料とする煮豆を意味する一般名称かの判断はできないが、その余のものについては、うずら豆やうぐいす豆と共に列挙されたり、特定の製造元を表示することなく市況欄に記載されているものであり、いずれも大黒花芸豆を原料とする煮豆を意味する一般名称として使用されているものと認められる。

<3>(a) 次の新聞等(主として昭和六一年一月以降のもの)にも、「茶福豆」又は「お茶福豆」についての記載がある。

甲第四六号証 昭和六一年一月一一日付け食料新聞第四面(盛大食品製造株式会社の広告)

甲第四七号証 同日付け食料新聞第一四面(株式会社くぼたの広告)

甲第四八号証 昭和六一年四月一六日付け食料新聞(株式会社滝本商店の広告)

甲第四九号証 平成七年五月二六日付け食料新聞(カネハツ食品株式会社の広告)

甲第五三号証の一 昭和六一年二月六日付食料新聞(市況欄)

同号証の二 平成七年六月六日付食料新聞(市況欄)

同号証の三 平成八年二月一日付食料新聞(市況欄)

甲第五七号証の一 昭和五八年一一月一日付け株式会社天満屋作成の「天満屋商報」

同号証の二 昭和六二年一〇月付け同社の「年末商品目録」

(当事者間に争いがない。)

(b) 上記(a)の各新聞中の記載のうち、甲第四七号証については、その記載だけを見ると、特定の商品名を意味するか、大黒花芸豆を原料とする煮豆を意味する一般名称かの判断はできないが、その余については、うずら豆やうぐいす豆と共に列挙されたり、特定の製造元を表示することなく市況欄に記載されているものであり、いずれも大黒花芸豆を原料とする煮豆を意味する一般名称として使用されているものと認められる。

<4> 《証拠略》によれば、被告がジー・サーチを使用して「茶福豆」を含む新聞記事を検索した結果、一般新聞中の記事は二件であり、いずれも神戸地裁判決の結果を伝えるものであること、日経金融新聞、日経産業新聞、日経流通新聞の中には、「茶福豆」についての記事があるが、それらの多くは、「茶福豆」を大黒花芸豆を原料とする煮豆一般を指し示す名称として使用していることが認められる(なお、日本食糧新聞は、明らかに専門紙と認められるので、取り上げないこととする。)。

<5> また、《証拠略》によれば、広辞苑第四版(平成三年一一月一五日発行)、大辞林(昭和六三年一一月三日発行)、日本語大辞典(平成元年一一月六日発行)、イミダス九八年版(平成一〇年一月一日発行)、現代用語の基礎知識九八年版(平成一〇年一月一日発行)、知恵蔵九八年版(平成一〇年一月一日発行)、総合食品事典(第三版)(昭和五三年三月一五日第三版増訂発行)、食品工業総合事典(昭和五四年一〇月二五日発行)、新編日本食品事典(昭和五七年二月二五日発行)、食品科学大事典(昭和五六年一一月一八日発行)、パトリシア・グレゴリー著「ビーン・ブック-世界の豆料理-」(平成八年四月三〇日発行)、文化出版局編「健康を食べよう 豆の本」(昭和六〇年一一月四日発行)、生活クラブ事業連合生活協同組合連合会編「うちの豆と乾物料理」(平成八年二月二〇日発行)、桔梗泉編「お料理ABC」(平成四年五月一日発行)には、「茶福豆」についての記載がないことが認められる(甲第七号証(万有百科大事典19植物―昭和四七年一〇月一〇日発行)については、その発行時期からして、当然記載されているはずはない。)。

(6) 業者の認識

<1> 甲第五八号証の一ないし六(意見書等)によれば、煮豆の原料を輸入又は卸売している住友商事株式会社(穀物部課長宮本正名義)、株式会社卜ーメン大阪食品砂糖部食品砂糖課(木村名義)、東海澱粉株式会社(大阪営業所松石名義)、杉原産業株式会社(専務取締役杉原康夫名義)、和光食糧株式会社営業第一部、株式会社シミズコーポレーション(代表取締役清水文雄名義)は、「茶福豆」を大黒花芸豆(又は紫花豆)を原料とする煮豆製品の慣用商標又は普通名称であると認識しているとの意見を表明していることが認められる。

これに対し、甲第六三号証(神戸地裁判決)によれば、反対に、「茶福豆」は大黒花芸豆を原料とした煮豆商品の慣用商標又は普通名称ではないと認識している商社や業者もあることが認められる。

二  慣用商標か否かの判断

以上の事実に基づき、「茶福豆」が大黒花芸豆を原料とする煮豆製品を表すものとして慣用されていたか否かについて判断すると、茶福水産が平成七年一二月と平成八年七月に「茶福豆」等の名称を使用している業者に警告する以前の段階においては、「茶福豆」が大黒花芸豆を原料とする煮豆を意味する一般名称として、大黒花芸豆及び煮豆関係の業者及び一般消費者によって相当程度使用され、認識されつつあったことが認められる。

しかしながら、平成七年当時においても、「茶福豆」を使用する三〇業者、「お茶福豆」を使用する二業者のほかに、「高原豆」、「花豆」等他の名称を使用する者が八業者あったこと、「茶福豆」が中国産の大黒花芸豆を原料とする煮豆を意味する言葉として使用され始めたのは昭和五〇年であるが、それが全国的に知られるようになったのは、平成二年以降、原告とフジッコがテレビコマーシャル、雑誌広告等を通じて宣伝広告活動を展開したことによるものであり(それに呼応して、「茶福豆」の煮豆市場におけるシェアも、平成二年の一・七%から平成七年の一二・七%に急増した。)、平成二年から上記茶福水産が「茶福豆」等を使用する業者に警告をした平成七年までは、五年程度の期間にすぎないこと、食品関係の業界新聞以外では、「茶福豆」が大黒花芸豆を原料とする煮豆の一般名称として使用されている例はさほどみられず、一般向けの新聞・雑誌、辞典、料理本等には、「茶福豆」の語が掲載されていないこと、大黒花芸豆の輸入業者、卸売業者等の認識も、慣用化されたとするものと、そうでないとするものに分かれていること等に照らすと、茶福水産の前記平成七年一二月と平成八年七月の警告にかかわらず、「茶福豆」が大黒花芸豆を原料とする煮豆を意味する語として慣用的に使用される標章となったとまで認めることはできないといわなければならず、これに反する原告の主張は理由がない。

三  普通名称か否かの判断

原告は、仮に、「茶福豆」が慣用商標に該当しないとしても、「茶福豆」は、言語構成上、大黒花芸豆を原料とする煮豆を指称する言葉として自然ないし適切な名称であり、現に一般に慣用されているか否かということとは無関係に、取引や需要者の便宜を勘酌して、普通名称に該当すると解すべきである旨主張する。

しかしながら、前記一(1)に説示のとおり、「茶福豆」のうち「茶」の部分については、大黒花芸豆を原料とする煮豆の色という商品の属性と関連付けられて命名されたものと認められるが、「福」の部分については、商品の属性と関連付けられて命名されたものとは認められず、大黒花芸豆との関連性を自然に想起させるものともいえない(なお、原告は、「茶福豆」が「茶色」の「福豆」の意味で命名されたものであると主張するが、仮にそうであるとしても、「福豆」は、一般には、節分にまくいり豆を指称するものと理解されるのであって、言語構成上、「福豆」又は「茶福豆」が当然に大黒花芸豆を原料とする煮豆を示す言葉として自然であるということには疑問がある。)。

したがって、「黒豆」、「金時豆」、「お多福豆」などのように、豆の種類、色、形などから自然に理解されやすく、長年使用されてきた煮豆ないしその原料の豆の普通名称とは異なり、「茶福豆」全体が大黒花芸豆を原料とする煮豆の名称として自然ないし適切な名称であると認めることは難しく、普通名称に該当する旨の原告の主張は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

四  取消事由一の当否

以上によれば、審決が「茶福豆」が慣用商標又は普通名称ではないとの前提で本願商標から生ずる称呼の認定を行ったことに誤りはなく、原告主張の取消事由一は理由がない。

第二  取消事由二(「茶福豆」が普通名称ではないとした場合の称呼の判断の誤り)について

一  本願商標及び引用商標の構成

本願商標の構成、指定商品等(特許庁における手続の経緯)及び引用商標の構成、指定商品等(審決の理由の要点(2))は、当事者間に争いがない。

二  本願商標と引用商標の類否

(1) 前記第一のとおり、「茶福豆」が慣用商標、普通名称とまでは認められないところ、本願商標は、別紙「本願商標」にあるとおり、「茶福豆」の文字部分が、「マルヤナギ」の文字部分と異なる字体で、かつ、倍以上の大きさで表わされているから、「茶福豆」の文学部分に着目して取引に資される場合も少なくないと認められる。

そして、「茶福豆」は一連に称呼しても冗長ではなく、「チャフクマメ」と一連に称呼され得るものであるが、「豆」の文字部分は、食品の原材料を表すものであるから、「茶福」の文字に相応して、「チャフク」の称呼が生じ得るものと認められる。

(2) 引用商標は、別紙「引用商標」に表示したとおり「茶福」の文字を書してなるものであるから、構成文字に相応して「チャフク」の称呼が生ずると認められる。

(3) 原告は、包装袋には「茶福豆」の名称だけでなく、原告では「図形」及び「マルヤナギ」、フジッコでは「ふじっ子」の出所を表示する記載が共に記載されていることを全体として非類似であることの理由として主張する。

しかしながら、周知のハウスマークが共に記載されているとしても、時と場所を異にして行われる取引においては「茶福豆」の部分だけに着目して取引されることも少なくないといわざるを得ないのであり、この点の原告の主張は理由がない。

(4) したがって、本願商標と引用商標とは、外観、観念における相違点を考慮しても、「チャフク」の称呼を共通にする類似の商標であって、かつ、その指定商品も同一又は類似のものであるから、本願商標は商標法四条一項一一号に該当するとした審決の判断に誤りはない。

三  取消事由二の当否

よって、原告主張の取消事由二は理由がない。

第三  結論

よって、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一一年四月二二日)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

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